ゆめのあと

 

 

 その日、だるまやに帰ってからまずしたのは、シャワーを浴びる事だった。
 いつもは浴槽から湯を汲み上げて使っているのに、その日は長い間シャワーを頭上から流しっぱなしにしていた。記憶と、感覚と、そして今も身体にまとわりついている気がする、あの人の香りを消すために。
 身体には無数の赤い痕が残っている。ああ、これがキスマークかと、まるで他人事のように自分の身体を見た。否、そうせざるを得なかった。
 何も消えては、くれなかったから。
 
 お風呂から上がって、ご飯を食べて、片付けをして。自分の部屋に戻ったらテスト前でもないのに教科書を広げて、終わったらもう頭に入っているはずの台本を読んで、一人で練習して。
 体を、頭を動かしていないと、気がおかしくなりそうだった。少しでも気を抜くと、身体に、心に刻み込まれた記憶が鮮やかに再生される。
 忘れてしまいたいのに……。
 
 その日は、眠れなかった。
 
 この葛藤は、一体いつまで続くのだろう。身体に残された痕がいつか消えても、貴方に抱かれた記憶も、事実も、消える事はない。貴方で無かったなら、私はただ憎めばよかった。だけど貴方だったから、私は憎む事も、ましてや許す事も出来ずにいる。
 
 心も体も全て、貴方に囚われてしまっているから。
 
 眠れない夜の果て、私の行き着く先は、何処…?
 

 

 

by あゆすたー

 

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